株券がなくなるってほんと? -9ページ目

不発行制度の概要(その1)

これからしばらく不発行制度の概要と移行措置につき説明を続けさせて頂きます。

1.いつから制度が始まるか

株券不発行制度を規定しているのは商法です。平成16年3月に改正商法が可決されこの10月1日から施行されています。ですから、すでに不発行制度はスタートしています。

ただ、上場株式については、

・ 制度の周知徹底
・ 不発行制度に合致した新しい振替制度の構築

等の準備期間として最長5年を想定し、法律施行後5年以内(2009年9月末まで)に一斉に移行するものとされています。


2.どうやって不発行制度に移行するか

不発行制度に移行するには、各発行会社が株主総会の特別決議により株券を発行しない旨を定めた定款変更を行うことで株券不発行会社に移行できます。定款に不発行の定めを於かず株券不発行制度に移行しないことも可能であり、定款自治の原則が貫かれています。

株券不発行を定款に定めたときは、効力発生日の2週間以上前に株券廃止の公告を行うと同時に株主、質権者への通知が必要となります

(参考)

会社ハ定款ヲ以って株券ヲ発行セザル旨ヲ定ムルコトヲ得(商法227条)

株券ヲ発行セザル旨ノ定款ノ定ヲ設クル決議ヲ為シタルトキハ会社ハ其ノ旨及会社ノ定ムル一定ノ日ニ於テ株券ハ無効トナル旨ヲ其ノ日ノ二週間前ニ公告シ且株主名簿ニ記載又ハ記録アル質権者ニハ各別ニ之ヲ通知スルコトヲ要ス。(商法351条)


「清算機関のための勧告」(日本銀行仮訳)

日本銀行から以下の報告書がアップされました

BIS支払・決済システム委員会と証券監督者国際機構専門委員会による報告書「清算機関のための勧告」(日本銀行仮訳)

http//www.boj.or.jp/intl/04/bis0411a.htm

金融庁新着情報(2004年11月25日)

金融庁のホームページで以下の情報が公開されました。

◎企業内容等の開示に関する内閣府令等の一部を改正する内閣府令案に対するパブリックコメントの結果について
http://www.fsa.go.jp/news/newsj/16/syouken/f-20041124-1.html

◎EDINETの高度化に関する協議会の開催について
http://www.fsa.go.jp/news/newsj/16/syouken/f-20041124-2.html

世界的な潮流 ~おさらいをかねて~

昨日、一昨日と固有名詞を並べただけで分かりにくかったかもしれません。そこでおさらいをかねて補足です。

1.大きな流れ

1989年のG30の勧告は各国で評価され、証券決済制度のグローバルスタンダードとなりました。その後、いろんな勧告が出されてきました。


2.目標

今、各国の証券決済制度が目指しているキーワードは2つに絞れます。

 a. 決済リスクの削減
 b. 効率的な制度

最近は、これらに加えてガバナンスの重要性も高まってますが、ここでは省略します。

決済リスク削減の流れを達成するための具体策としてはざっくりと以下の2つ。

・証券と資金の紐付け決済(DVP:Delivery versus Payment)の導入
・約定日から決済日までの期間短縮。
 => 目標として翌日決済(T+1),究極的には当日決済(T+0)。

効率性の流れからでてくる具体的な施策としては

・証券系メッセージフォーマットの統一化(ISO15022準拠)
・集中保管機関を利用した振替決済と無券面化(無券面化、不動化)
・STP(Straight Through Proseccing)処理


3.まとめ

効率性とは低コストとニアリイコールと思います。発行体、証券会社、信託銀行等、各市場参加者にとり効率的で低コストな市場を維持しないと、その市場は国際競争に負けてしまいます。無券面化とはその一つの有力な手段なわけです。

第21回金融審議会金融分科会第一部会

2004年11月19日に開催されました、第21回金融審議会金融分科会第一部会の資料が公表されました。

http://www.fsa.go.jp/singi/singi_kinyu/siryou/kinyu/dai1/f-20041119_sir.html

世界的な潮流(2) 本邦のうごき

2.本邦における動き

1989年のG30の勧告に遅れること10年、1999年になりようやく本邦でも証券決済制度改革の議論が具体化し、2000年に公表された「21世紀に向けた証券決済システム改革について」により、本邦における証券決済制度改革の方向付けがなされた。また、昨年11月には日証協証券受渡・決済制度改革懇談会より「証券決済制度改革の推進にむけて」と題する報告書がだされ、現状認識と制度改革の目標が再確認されました。

この「証券決済制度改革の推進にむけて」は現在の証券決済市場を大きく動かしている根源ですので、ぜひご一読ください。

(1)1999年 自民党金融問題調査会「証券決済改革の提言」: T+1決済導入を提言

(2)2000年 金融審議会第一部会「21世紀に向けた証券決済システム改革について」
改革の目標として「証券決済のリスクとコストの低減を図り、使い勝手がよく、証券市場の国際競争の強化に資する証券決済システムの構築」を掲げ、改革の具体的方策として以下を提言。
(Ⅰ)統一的な証券決済法制の整備
① 有価証券流通段階におけるペーパーレス化の拡充 ② 社債決済制度の見直し
③ 証券決済機関のあり方の見直し
(Ⅱ)STPの実現
① 取引報告書及び信託財産運用指図書の電子化 ② 有価証券横断的な照合システムの構築
(Ⅲ)DVPの実現等
(Ⅳ)クロスボーダー取引の決済の円滑化

(3)2002年11月   日証協 証券受渡・決済制度改革懇談会「証券決済制度改革の推進に向けて」
現在を証券決済制度改革の実行段階と位置づけ、①証券決済制度改革の意義と目標を共有 ② 現状
の課題を認識した上で、③制度改革の将来像を確認し④実現に向けたマスタスケジュールと体制を提示することを目的とした報告書。証券決済制度改革の目標として次の3点を挙げている。

・ 国際競争力を持つ最先端のペーパーレス化されたDVP決済の実現
・ システム全体での効率化を図り競争力を高めるSTPの実現
・ 決済期間短縮の実現

世界的な潮流

株券がなくなるのはとっても大変なことです。
で、なぜここまでするかというと、世界における証券決済市場の変革と無関係ではなく、国際的な市場間競争の中で考えれられたものです。世の中の流れをここで押さえておきたいと思います。


1. 証券決済制度改革の世界的潮流

1989年にG30の勧告「世界の証券市場における清算及び決済システム」が公表され、証券決済におけるグローバルスタンダードとなった。その後1995年の修正勧告、2000年の勧告2000が出され、現在はCPSS/IOSCOによる「証券決済システムの勧告」が2001年に公表されている。いずれにおいても、決済リスクの削減や効率的な証券決済のため、証券現物の決済に代え、集中保管決済を行う振替機関における決済が推奨されている。

(1)1989年 G30勧告「世界の証券市場における清算及び決済システム」

証券決済における初めてのグローバルスタンダード。
以下の勧告を含み、世界的な証券決済制度改革の流れを作った。

a. 証券集中振替機関(Central Securities Depository :CSD)の設立による証券の預託(券面の不動化、無券面化)と振替決済の実施
b. ローリング決済の実施と決済期間短縮(T+3の実現)
c. DVPの導入

(2)2001年 「証券決済システムのための勧告」 

ISSAによるG30修正勧告(1995年)、勧告2000(2000年)を経て、BIS「支払・決済システム委員会」(CPSS)、「証券監督者国際機構」(IOSCO)両者により作成された勧告。現在はこれがスタンダードと言っていいでしょう。

・・・つづく

検討の経緯

株の券面をなくすというのは、これまでの常識を根底から覆すものと思います。一応、これまでの検討経緯を辿っておくことは無意味ではないと思います。


(1)平成14年度改正商法案
2001年4月、以下の実務的な観点並びに国際的な証券決済制度改革への対応の観点から、平成14年度改正商法試案に券面不発行制度が盛り込まれた。

<券面不発行を必要とする理由>
① 証券会社の保護預り制度や証券保管振替機構における振替制度から、株券の交付を伴わずとも証券の売買が行なわれているという実態。
② 取引所などからの要請により単元株の引き上げを行なう、あるいは経済環境への適応のための合併、会社分割等を行なう発行体が増加し、券面発行のコスト、券面差替えの事務負荷がこれまで以上に発行体の負担となってきた。
③ 券面の交付が円滑な証券決済を阻害し、将来的に実現すべき決済期間短縮化の足かせとなっている。
④ 仏に代表されるよう海外でも券面不発行制度を導入する市場がでてきた。


(2)同試案の検討結果
券面不発行制度については賛成多数
ただし、以下の理由により、平成14年度商法改正要綱には盛り込まれず、法制審議会での議論を継続することになった。

<見送り理由>
① 同時に社債振替法の審議が進行しており、同法の成立が優先された
② 物権である株式は金銭債権である債券とは権利関係が異なり、また企業統治等、債券にはない複雑な要素があること。

(3)法制審議会での検討
2002年2月 法制審議会「株券の不発行制度等に関する諮問」
これを受け、既存の会社法部会とは独立した「会社法(株券等の不発行等関係)検討部会」設置。
2002年9月 同年9月より会議が開催され、2003年3月中間試案を策定、公開。
同時にパブリックコメント募集
2004年6月 商法改正可決

第16回金融審議会金融分科会特別部会

金融庁ホームページに本日(2004年11月19日)開催の第16回金融審議会金融分科会特別部会資料がアップされました

第16回金融審議会金融分科会特別部会

http://www.fsa.go.jp/singi/singi_kinyu/siryou/kinyu/tokubetu/f-20041119-5.html

株式について おさらいしましょう

株券不発行制度の前に簡単に株と現行の制度について整理しておきましょう。

1.株式とは何?

株式とは株式会社に対する出資者(株主)の権利であり、その権利を表象するものとして株券が存在します。

株券が表象する権利としては以下のものがあります。

●自益権:「利益配当請求権」や「残余財産分配請求権」等
●共益権:「議決権」等

詳しくはこちらのサイトでもごらんください。
カブドットコム証券の投資入門講座(株式入門)


2.現在の商法と株券の関係

現在の商法の規定では以下のとおり株券の発行が必要となっています。

1.会社は・・・遅滞なく株券を発行することを要す(商法226条)
2.株式ヲ譲渡スニハ株券ヲ交付スルコトヲ要ス(商法205条)
3.株券ノ占有者ハ之ヲ適法ノ所持人ト推定ス(商法205条の2)

つまり「株券」が存在しなければ株式の譲渡もできないし適法な所持人となれない。つまり今の法律では券面があって成り立っている制度なのです。


<補足>

現在、証券保管振替機構の振替制度を利用している場合は、保振法により商法205条および205条の2の類推適用をすることで、権利の確保を図っています。保振を利用することで実質的には無権面化された世界を味わえるが、背後には券面が存在することが前提となっています。現行の保振法の世界は改めて整理したいとおもっています。